ビッグデータマガジン

これまでの常識をくつがえすビッグデータ分析シリーズ ~第一回:常識にとらわれない発見で売り上げ増加~

time 2014/08/14

これまでの常識をくつがえすビッグデータ分析シリーズ ~第一回:常識にとらわれない発見で売り上げ増加~

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
准教授/主任研究員 中西 崇文

近年「ビッグデータを利活用しなければ」と盛んに言われています。総務省の平成26年版情報通信白書では、「2013年の国内データ流通量は8年前の約8.7倍になり、60.9兆円に及ぶ売上向上効果に寄与するなどデータ活用はさまざまな価値を創出。」と報告されています。その傾向は、さらに強まりセンサーなどのデータの活用は途上の段階とも記されています。

そうすると、「わが社もビッグデータに乗り遅れてはいけない!」と思われる方がいらっしゃると思いますが、少し待って下さい。これまでも、データ分析はしっかり行われてきたのではないでしょうか。そう、何が新しいの?バズワードなんじゃないの?これまでも、コンビニなんかでPOS(Point of Sales)システムで売り上げを把握して、品質管理や納品管理していたじゃないか、とお考えの方もいらっしゃると思います。

そうなんです、今までもデータ分析はずっと行われていたのです。にも関わらず、なぜ、ビッグデータが注目を集めるのでしょうか。

 

■  「センサーデバイスの発達、廉価化」、「認識技術発達」、「デバイスの多様化と個人化」

ビッグデータと呼ばれる背景として、データのVolume(量)が莫大に増え、データのVelocity(更新頻度)が増え、データのVariety(種類)が増えたことに起因します。これはビッグデータの3Vと呼ばれています。

データが3Vを満たして、ビッグデータという言葉ができた背景に、「センサーデバイスの発達、廉価化」、「認識技術発達」、「デバイスの多様化と個人化」があります。

「センサーデバイスの発達、廉価化」とは、センサーが小型化、高性能化、安くなったことにより、どこにでも誰にでも設置でき、かつ高精細に状況を把握できるようになりました。逆に言えば、状況が把握できるほどのデータが増えたのです。

「認識技術発達」は、センサーから取り出された大量で更新頻度が高くさまざまなデータを処理し、認識する機能が発達してきたという意味です。

「デバイスの多様化と個人化」は、お持ちのスマートフォンに目をやってください。これこそセンサーだらけです。GPSセンサー、近接センサー、輝度センサー、加速度センサー、ジャイロスコープ、場合によっては、カメラ、音声、実際の手入力など。センサーだらけのものを一人一人が持ち歩く時代になったのです。

この通り、現実世界から現実世界の状況を十分表現するだけの大量、随時、さまざまなデータを取り込むことができるようになったのです。これがビッグデータの背景なのです。

 

■  従来のデータ分析とビッグデータ分析の違い

現実世界の状況を十分表現するだけの大量に、随時、さまざまなデータを集めることが可能になったと書きましたが、それで分析手法が変わるのでしょうか?

従来のデータ分析手法を考えてみましょう。

従来ならば、調べたいことに対して、全てのデータを集めることが困難だったため、現実世界全体の中から、サンプルデータを取り、シミュレーションすることにより科学を検証していました。
センサーデバイスも高価なものが多く、多数のセンサーデバイスを購入・設置することが不可能でした。

その場合、これまでの知見を活かし、仮説を立て、モデリング(その仮説を示す仕組みを仮想的に構築すること)をし、そのモデリングの中で重要だと思われる場所にセンサーデバイスを設置し、それをサンプルデータ(データ分析対象)として測定をしました。その結果から、現実の事象を予測していたわけです。

しかし、現実世界の状況を十分表現するだけの大量に、随時、さまざまなデータを集めることが可能になった今、仮説を立てて、サンプルデータ(データ分析対象)を選ぶ必要がないのです。現実世界の状況を十分表現するだけのデータが存在するのがビッグデータの環境だからです。

ビッグデータ時代のデータ分析

 

この図が、これまでのデータ分析とビッグデータの分析の違いです。大きな違いは、サンプルデータ(データ分析対象)を選ぶ必要がないことです。サンプルデータ(データ分析対象)を選ぶ必要がないということは、仮説を立てる必要がないということなのです。

これは非常に大きなことです。これまでの科学では「仮説」を立ててそれを「検証」するのが王道でした。しかし、ビッグデータの分析では「仮説」はデータ分析の入り口でしかなく、「データが表した事が真実」だという考えに至るのです。

 

■  新しい発見のためのビッグデータ分析

ここでよく考えてみて下さい。「仮説」を立てるのは誰でしょうか?その事柄を良く知る「人間」です。つまりその人間が思っている「仮説」を権威付けるのが「検証」というわけです。

「仮説」が当たり前なら、当たり前の結果しかでません。

所詮、人間の考えることなので、常識の枠からはみ出ることはないのです。それならば、いくらやみくもにデータ分析しても常識的なことばかりで、価値を生み出すことを考えられないでしょう。

つまり、ビッグデータの分析によって、データから現実世界の真実を見せられ、必要に応じて「人間」が実践するという時代になったのです。これによって、常識にとらわれない、新しい発見が生まれるのです。

 

■  常識にとらわれない発見で売り上げ増加 ― Zの法則を打ち破ったダイドードリンコ

みなさん「Zの法則」というのをご存知でしょうか。小売業界では当たり前の法則だそうです。陳列棚、新聞広告などを見る消費者の視点は、上段左側からはじまり、右へ移動、上段を見終えると、下段左側へ移動して右へ移動していくという、つまり消費者の視点がZ字のように移動する法則を指します。

つまり、上段左側がポイントで、ここに売れる商品、利益が出る商品を置く事が常識となっていたのです。

ダイドードリンコは、自動販売機を販売ルートの大半を占めており、自動販売機での売上げは非常に重要でした。

以前は、Zの法則に倣い、ダイドードリンコの自動販売機では、主力シリーズ「ブレンドシリーズ」を右上に配置していました。

そんな中、全ての自動販売機にアイトラッキング(消費者の視点を認識するセンサー)を取り付け、調査をしたところ、自動販売機に限っては下段に視線が集まることが分かったのです。

これにより、ダイドードリンコの売り上げは前年比1.2%増という好結果を出しました。

これまでの分析にあった、「仮説」「検証」のプロセスがなく、アイトラッキングというセンサーが拾った現実を可視化した結果です。これによってZの法則という常識が打ち破られたのです。これこそ、ビッグデータ分析の強みなのです。

 

■  データは正直者―身構えず利活用を

今回は、これまでのデータ分析とビッグデータの分析との違いを出すために、ビッグデータ分析の成功例を挙げました。もちろんこれまでのデータ分析を用いて成功をしている企業もたくさんあります。

どちらにせよ、今後データ活用によるビジネス展開は重要な局面に向かうことは、確かです。身構えずできるところから、データ活用を進めていく事が重要だと思います。

大切なことは、データを「色眼鏡なく」みること。

データは、あなたが思う以上に正直なのです。


【執筆者情報】

中西 崇文 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授中西 崇文

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授/主任研究員 博士(工学)

1978年12月28日生まれ、三重県伊勢市出身。2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。独立行政法人 情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発、大規模データ分析・可視化手法に関する研究開発等に従事し、2014年4月、現職に至る。
つまり、「ビッグデータ」という言葉が流行する前から、異種異分野大規模データ分析に関する研究を続けている。
専門は、データ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析。近年は、ビッグデータ分析手法を通したデータ分析工学分野の創出、ソーシャルメディアコンテンツ伝搬モデルデザインに興味を持つ。知的財産管理に関する諸問題にも造詣を持つ。

著書として、「Perspectives on Social Media: A Yearbook」(Piet Kommers, Pedro Isaias, Tomayess Issa (編))のChapter 4「Toward Realizing Meta Social Media Contents Management System in Big Data」担当(共著)(Routledge刊、2014年8月発売予定)がある。

また、趣味は楽曲制作、ピアノ演奏。ララバイブラザーズのピアノララバイとして、「三枚目のダイアローグ」(GOK RECORD)など、これまで3枚のアルバムCDリリースがある。

Twitter: @piano_lullaby
Facebook: http://facebook.com/pianolullaby
Homepage: http://www.glocom.ac.jp

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