ビッグデータマガジン

データ活用企業に必要な「信頼関係」~これまでの常識をくつがえすビッグデータ分析シリーズ第三回~

time 2014/10/09

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
准教授/主任研究員 中西 崇文

■  宇宙をつかさどる法則がビジネスにも当てはまる?

みなさん、「ハッブスの法則」はご存知でしょうか。ハッブスの法則とは、宇宙に関する法則で、自分とある天体との“距離”と“遠ざかる速さ”とが正比例するという「ビッグバン説」(宇宙はビッグバンという爆発からはじまり、現在も宇宙は刻々と膨張し続けるという説)を裏付ける法則です。

この法則が、実は、ビジネスにも当てはまるのではないかと言われています。どういうことかといいますと、企業と顧客との“距離が遠く”なれば遠くなるほど、自社から“離れていくスピードが速くなる”という法則です。もし、これが本当だとしたら、新規顧客獲得はどんどん難しくなっていく時代となるでしょう。これは企業にとっては死活問題です。このような状況から脱却するためにはどうしたらよいのでしょうか。

 

■  情報コストが下がっていることを見逃してはいけない

ハッブスの法則がビジネスにも当てはまるのではないかという原因の一つに情報を得る苦労、つまり、「情報コスト」が顧客側、事業者側に激減したことが一つとされています。

これまで、手書きであったものが、活版印刷となり、それが、マスメディアに発展しました。さらに、この現状を変えたのは、コンシューマージェネレーテッドメディア(CGM)の発達です。顧客も企業もその商品の評判という形で、生の声を聞けるようになったのです。これが現在ではソーシャルメディアへと発展しています。

顧客側はどこかに対して一方的に情報を与えるのではなく、広く世界へ情報を発信することができるようになりました。これは企業にとっても同じで、顧客の生の声をアンケート調査などの調査費用をかける事なく、ネットワーク上から得られるようになりました。また、企業側から安価に商品の情報等を、ネットワークを通じて、直接、顧客に流すことができるようになりました。

このように、情報コストが下がってきたということで、逆に情報はあふれてきています。顧客側も企業側もマスメディアの時代のように一方向の同じ情報を流す、受け取る形ではなく、双方向に大量の情報がやり取りされるようになったため、いったん不必要と認識された情報は、よく確認する事もなく捨てられてしまう可能性が出てきてしまいました。顧客側は企業の事を気にしていない限り、その企業のことを知ろうともしませんし、企業側も顧客のことを考えて情報を発信しなければ、顧客に振り向いてもらえなくなりました。これが「ハッブルの法則」のビジネス版につながるのです。

 

■  既に「モノ」から「コト」へ時代は進んでいる

企業側が顧客に気にしてもらうようにするにはどうしたら良いでしょうか。簡単なのです、顧客一人一人のことを「知る」ことなのです。

J.D.パワーアジアパシフィックが調査した、日本小型トラック顧客満足度調査では、商品(13%)自体よりもアフターサービス(51%)に顧客は重きを置いていることが分かります。これは扱う商品によって異なりますが、顧客心理として、これまで大量生産・大量消費で見られた、「捨てる文化」から「より持続可能な文化」に変わっていることが伺えます。それと同時に、顧客が負担していた維持管理を、メーカー側に転嫁するモデルに変わってきたことが分かります。

さらに企業側も、技術が円熟しつつあり、シーズの天井をむかえ、競合他社との商品では機能的な区別を付けられなくなってきました。コモディティ化です。コモディティ化が進む時代において、どこで差をつければ良いでしょうか。商品を購入した後の顧客を大事にすることをし続けることなのです。

これまでの顧客との接点と言えば、小売業の実際商品を買うという場でしかありませんでした。そのため、販売時点情報管理(POS,Point of Sales)が重要だとされてきました。しかしながら、実は、その商品をどのように使っているのか、商品に関して不便なことはないか、そろそろ壊れてくる時期なのか、買い替え時期なのか、のような顧客が商品を買った後の利用状況を把握するPOU(Point of Use)が重要となってくるのです。

POSとPOUの違いは一体どこなのでしょうか。顧客の満足度を測る指標が変わったと考えるのがよいでしょう。大量生産・大量消費の時代は、顧客に買ってもらうときに満足度が最大になれば良かったのです。そのために、マスメディアで顧客に対して、企業や商品のイメージを刷り込み、その商品を手に入れたという満足を提供するのが企業のあり方だったのです。それを測るためにはPOSがちょうど良かったのです。しかし、前記の通り、ネットワーク社会の環境で、その商品が実際どうだったのかという使用したときの満足度を最大にすることが重要となってきました。その使用した感想がクチコミとしてSNS上に簡単に出回るようになったからです。実際に書品を買ってくれた顧客の使用感、アフターサービスの満足度が重要になってきました。それを測るのがPOUとなるわけです。

「モノ」づくりから「コト」づくりとよく言われますが、「モノ」をないがしろにするという意味でも、「コト」、つまり、経験を提供する商品、サービスを新しくつくらなければいけないという意味でもないのです。同じ、商品、サービスを提供するにしても、その後の顧客の満足度をしっかりとキャッチする必要を意味しているのです。少なくとも、自社の製品やサービスを手にしてくれた顧客は自社に少なからず興味のある顧客ですから、大切にすることは当たり前です。

さて、新規顧客はどうなるのというお話がありますが、大丈夫です。きっと優良顧客が自社のサービスの満足度をつぶやいたり、書いたりして、それがネットワーク上に広がっていくでしょう。ネットワークでの広がりというのをなめてはいけません。マスメディアよりも効果が絶大であることはご存じでしょう。その「経験」に基づいた情報が、新規顧客を生むのです。

 

■  メーカーから顧客の満足度を追いかけるサービス業へ転身―KOMTRAX

 

コマツと言えば、建設機器のメーカーであります。しかし、コマツはメーカーからサービス業へ転身していると言っても過言ではないでしょう。

コマツが出荷した約62,000台の建設機器にKOMTRAXというシステムが導入されています。具体的にはGPS、通信システムが装備され、車両内ネットワークから集められた情報やGPSにより取得された位置情報が逐次コマツのサーバへ集約されています。つまり、コマツは建設機器を購入した顧客がどのように使っているかを把握しているわけです。

もともと、このGPSおよび通信システムは1998年ごろに多発した「ATMを壊して現金を強奪する事件」に対してコマツの製品が使われたら困るという発想から始まりました。

建築機器にGPSなどのセンサーが付くということで、コマツの機械を盗むと追跡される、メールが届くと話題となり、顧客にも喜ばれました。つまり、ただ顧客の情報を集めるだけでなく、顧客へのサービス向上にも活かしたのです。もしもただ、一方的に情報を集めるだけのシステムとしていたら、顧客の拒否反応が激しかったでしょう。情報と引き換えにサービスする、顧客と企業との信頼関係です。

コマツのGPSなどのセンサーと通信機器を付けるということは、販売する建設機器の生産コストが高くなり、利益が出ない商品開発でした。

しかし、KOMTRAXは顧客の利用状況(POU)を把握することにより、部品の交換時期と訪問メンテナンス、エンジン稼働からみたエネルギーの無駄遣いなどのアドバイスまでをサポートすることで、顧客の信頼を勝ち取りました。コマツの顧客は、建設機器自体が欲しいのではなく、建設するときに、きちんと稼働する道具が欲しいのです。同じように聞こえますが、前者は従来のメーカーであり、後者はサービス業となるでしょう。コマツはKOMTRAXにより、メーカーとしての建設機器の性能は変えないままで、サービス業と生まれ変わり、顧客の満足度を上げているのです。

 

■  データ中心ビジネスで重視すべき「信頼関係」

 

今回は、データ分析の観点から少し離れ、データ活用によるビジネス変革についてスポットを当ててきました。

顧客のデータはプライバシーなどの問題があり、実際のビジネスになると難しい問題が待ち構えています。しかしながら、「信頼」によって顧客と企業がつながり合う時代が来ました。これは、決して新しいことではないのです。大量生産・大量消費の前の商文化を考えてみれば、購入側も販売側もお互いに信頼がないかぎり、商取引はなかったはずです。情報コストが下がった今、また、お互いの信頼が重要となってきたのです。

データ中心としたビジネスとは、実は「信頼」に重きを置くビジネスなのです。

 

【関連記事】これまでの常識をくつがえすビッグデータ分析シリーズ 

第一回:常識にとらわれない発見で売り上げ増加
http://bdm.change-jp.com/?p=1746

第二回:データ連携でタイムスリップ
http://bdm.change-jp.com/?p=1870

 


【執筆者情報】

中西 崇文 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授中西 崇文

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授/主任研究員 博士(工学)

1978年12月28日生まれ、三重県伊勢市出身。2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。独立行政法人 情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発、大規模データ分析・可視化手法に関する研究開発等に従事し、2014年4月、現職に至る。
つまり、「ビッグデータ」という言葉が流行する前から、異種異分野大規模データ分析に関する研究を続けている。
専門は、データ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析。近年は、ビッグデータ分析手法を通したデータ分析工学分野の創出、ソーシャルメディアコンテンツ伝搬モデルデザインに興味を持つ。知的財産管理に関する諸問題にも造詣を持つ。

著書として、「Perspectives on Social Media: A Yearbook」(Piet Kommers, Pedro Isaias, Tomayess Issa (編))のChapter 4「Toward Realizing Meta Social Media Contents Management System in Big Data」担当(共著)(Routledge刊、2014年8月発売予定)がある。

また、趣味は楽曲制作、ピアノ演奏。ララバイブラザーズのピアノララバイとして、「三枚目のダイアローグ」(GOK RECORD)など、これまで3枚のアルバムCDリリースがある。

Twitter: @piano_lullaby
Facebook: http://facebook.com/pianolullaby
Homepage: http://www.glocom.ac.jp

    

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